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IT Future Session vol.7レポート 「ビジネス×デザイン」市角壮玄講師

2015年05月08日
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ビジネス・ブレークスルー大学ITソリューション学科がお届けする、IT(= I:イノベーション×T:タレント)をテーマに未来トークを行うイベント、IT Future Session第7回が、2015年4月19日に開催された。好評を博した前回に引き続き、今回もビジネス・ブレークスルー大学で「WEBサイトデザイン」講座の教鞭を執られる市角壮玄講師にご登壇頂いた。

セッション前半は市角流「デザインシンキング」の講義を、後半はワークショップ形式で各テーブルの4~5名ずつでチームを組んでもらい、プレゼン発表に至るまで「デザインシンキング」を体験してもらった。

 

 

「デザイン」というものへの誤解

 

まず市角氏は、デザインというものに対し多くの人が「魔法みたいなもの」と捉えていることについて言及。デザイナーは、経営者から仕事を依頼される際に「デザインの事はよく分からないから自由にやってよ」と言われると、その意図を正確に汲んで製品を作り上げてしまう、そんな超能力者のように思われているゆえに苦労する。というのも、いざ出来上がった段階で「こういうのを望んでいたんじゃない」とクレームが来て、摺合せに時間がかかることが実は少なくないからである。

彼ら経営者に共通しているのは、デザインというものに対する「自分のカテゴリーの外にあるもの」という感覚である。彼らはデザインというものを経営とは全く関係のない事だと思っており、そしてこの点に、日本における「経営」と「デザイン」との融合を妨げる要因が潜んでいる。このように市角氏は示唆する。

 

 

「なんか良いんだよね」の「なんか」とは「何」なのか

 

さて、そんな魔法のように思われているデザインを使い、時価総額世界一の座に君臨し続けるアップルについて、市角氏は次のように分析する。

アップルとは「宗教」であり、信者であるアップルユーザーは「きわめて熱狂的」で率先して「布教活動に勤しむ」が、その実、明確にアップル製品の素晴らしさを伝えることができる人はきわめて少ない。彼ら信者の布教におけるセリフは一様に「アップルってなんか良いんだよね」である。そしてこの言葉こそが、デザインが「魔法」であるとされている所以を解く手掛かりである。ではこの「なんか良いんだよね」の「なんか」とは「何」なのか。アップルが世界に向けて杖を振りながら我々に仕掛ける「魔法」の正体とは何か。

この感覚的に「なんか良い」をユーザーに思わせる仕組みを、市角氏はアップル製品を例に出して解説する。それは、ボタンを押した時のへこみ方の気持ち良さであり、迷ったら消すという発想の下に作られた操作性によって使い手が迷わずに済むというシンプルさであり、わずかにザラザラした質感を出すことで鞄に入れた時に摩擦を起こし気付かぬうちに滑って落ちてしまっているかもしれないという不安をユーザー本人が自覚しないままに解消させている点である。

また、親和性を感じさせる工夫が大きいのも特徴であると市角氏は言う。それは、間違ったパスワードを入れると起こる振動が、まるで人間が首を横に振っているように見えることや、製品の形やロゴなどの曲線が動物をヒントにデザインされているものであることなどだ。

これらは全て意図的なものであると市角氏は言う。アップルは、人間工学的・心理学的アプローチから算出された緻密な設計が人間の五感に直接働きかけることで、「なんか良い」と思わしめることに成功している。そしてその設計方法、思考様式こそが「デザインシンキング」なのである。

 

 

デザインシンキングが提唱されるに至った理由

 

このデザインシンキングであるが、元々はデザインスクールの中でしか教えられていなかったものだと市角氏は解説。デザイナーはデザインシンキングが自然と頭の中で出来てしまうが、この思考プロセスを論理的に言語化しモデル化し理論に落とし込むことで、誰にでも「デザイナーのように問題を解決することができる」ようにしたというのが、この思考様式が広く知られるようになった経緯である。

デザインシンキングに限らず、これまでもビジネスにおける多くの思考様式は都度、提唱されてきた。従来の問題解決思考だと例えば「マーケティングリサーチ」がある。これは問題の所在が明確なものについての解決方法としては非常に有効である。しかし、五感に訴えかける「デザインシンキング」が広くビジネス社会で使われるようになった今日の経済事情として、市角氏はジョブズの次の言葉を引用する。

 

ITFS7_Jobs

 

つまり、我々を取り巻く社会的環境の加速的変化による「予測不可能な社会の到来」により、従来の消費者の要望に寄り添うだけで成り立つ経営スタイルは瓦解し、消費者のニーズの根底に眠る本来の欲求を炙り出すことで新たな市場や顧客の創造を図り、人々のライフスタイルを変えるようなイノベーションが求められるようになったということだ。

まさに今のこの時代だからこそ必要とされる思考様式なのである。

 

 

アップルにおけるデザインと日本のデザインの隔たり

 

この思考様式が確立される礎となったジョブズ率いるアップルだが、日本と大きく異なる会社の姿勢として挙げられるのが、社長であるジョブズ自らが、製品を開発していく上でデザインに深く関わっているという点である。デザインが製品開発に占める割合が日本のそれに対し圧倒的に多く、アップルでは製品を作っていく過程での社内の重要な決定を外部のデザイナーと話し合ったり等、デザイナーを直接参画させることがきわめて多い。

社内一丸となって全力でデザインに取り組んでいるアップルに対し、日本ではデザイナーというものの位置付けが、あくまで専門職であり、開発に関わる分野の一セクションに過ぎないという認識であることに大きな隔たりを感じると市角氏は警鐘を鳴らす。

アップルのような「マイライン」を今の日本は求められており、そして実際にこのラインを取り入れている日本企業が増えてきていることから、今後スタンダードな思考様式になるであろうことが予測されるのだ。

 

 

デザインシンキングのフェーズの意味

 

このデザインシンキングは、大きく5つにフェーズに分けられる。

デザイン思考を提唱した第一人者であるIDEOのデイヴィッド・ケリーの5フェーズは以下である。

IDEO式

1.共感

2.問題発見

3.創造

4.プロトタイピング

5.テスト

そして以下が上記IDEO式に改良を加えた市角式である。

【市角式(IDEO改良版)】

1.共感(+五感の総動員)

2.問題発見(+破壊的思考)

3.創造

4.プロトタイピング

5.テスト

この市角式に則り、セッション後半からは会場に集う皆でデザインシンキングを用いて問題に取り組んだ。今回のお題は『雨の日の満員電車の不快感を解決しよう』である。

 

第1フェーズの共感(+五感の総動員)では、

・本当に欲しいものは何かを考える

(他の人がバラを10本用意するなら自分は15本、という発想ではビジネスでは勝てない)

・最も共感できるものを見つける

・日常感じていることを深く掘る

・実際にフィールドワークしインタビューする

・文章ではなく絵に描いて記録する

(言葉で説明するだけでは伝わらないディティールが言葉以外の部分で伝わり共感しやすくなる)

・ペルソナを設定し、詳細かつ具体的が人物像を描いていく

・ペルソナになりきる

上記を留意した上で、雨の日の満員電車にまつわる嫌な思い出を皆で出しあう時間を取った。

 

第2フェーズの問題発見(破壊的思考)では、

・共感によって集めたデータを分析する

・相手が感じている本当に困っていること・モノを、より相手の気持ちになって考える

この二つを重点的に行った。これは第1フェーズでもすでに話し合っている内容だが、更にこの部分を深く掘り下げることが肝要だと市角氏は言う。ここにどれだけの時間を割けるかがビジネスのデザインにおける軸となる。というのも、本当の問題が何なのかを正しく見極めフォーカスできないと、どこを捨てどこを残すかの判断が付かず、バラ15本の発想に陥ってしまう。そうなると、従来の不必要な玉虫色機能が満載の製品になってしまい、結局消費者のニーズにそぐわないという結果に終わるのだ。

 

ITFS7_Problem

 

第3フェーズの創造では、

・引き算をする、なくしていく

これだけに時間をかけた。これは、本当にその問題を解決するには他の問題解決方法は捨てざるをえなくなるという考え方に基づいている。つまり、その問題解決方法で臨む解決したい部分以外で不便になっても良いと潔く考えることが肝腎なのである。

 

第4フェーズのプロトタイピングで、

・試作品を作る

ここで形にしたものを実際に目にすることでブラッシュアップが何度もでき、調整に調整を重ねていけるのだという。何をどこを可愛いと思うか美しいと思うかなどを具現化し、チームで共有するのが目的である。

プロトタイピングの良さは安価なもので作れるところにある。すぐに作れる上にブラッシュアップの際にもコストがかからないのが利点だ。

製品開発の場合は試作品だが、例えばサービス業におけるデザインシンキングの場合、プロトタイピングは「寸劇」である。ごっこ遊びをいかに真剣にやるかが、そのサービスが世の中で受け入れられるかどうかの閾値を決めると市角氏は説明する。

 

最後の、第5フェーズのテストで、

・製品化

第3フェーズと第4フェーズを行ったり来たりと繰り返しながら精査していき、製品化していく。

 

 

子供の目に立ち返ることで「本当の問題」を発見する

 

市角氏はデザインシンキングという思考様式について「使っている脳の部分が子供っぽい」のが大きな特徴であると述べている。これが実は重要で、既成概念から脱却し前例のないイノベーションを興すには、常識という名のフィルターにブラインドされていない、澄んだ子供の目に立ち返る必要があるのだ。

そしてデザインシンキングのもう一つの特徴として「すぐに解決しようとしないこと」を挙げている。例えば、5つのフェーズに則って話していても、人間が数人集まると、どうしても一つのアイデアに対して解決策を提案してしまいがちになる。いわゆる大人の思考だが、そのソリューションだと巷によくあるマニュアルが無駄に分厚い携帯電話が出来てしまう。すぐに解決しようとせず、その問題を更に深く掘り下げることで根底にある本当の問題が発見される。その作業を真剣に行うことでブルーオーシャンが目の前に開けるのである。

また、問題の原因になっている本当の不快感を探る上で重要なのが、皆で出し合ったメモや発言であると市角氏は言う。そしてその際に、言葉と行動のズレが生じている部分があることに気付くことが大事である。そのズレが見えてくると本来の問題がおぼろげながらも立ち現われてくるのだ。また、掘り下げの作業の中で幾つもの問題が出てくるが、それを仕分けすることで、枝葉の問題から根幹にある問題に辿っていけると市角氏は言う。一つ一つの問題について考えず、根本的なそれに常に立ち返るという発想だ。

そして、デザインシンキングで最も大事なのは、笑われる前提で「突拍子もない案を出す」ということである。落としどころについては最終的に考えれば良いのであり、一見馬鹿馬鹿しいように思われる案であっても、このメンバーだったらできるかもと思えるものをどんどん挙げていってほしいと市角氏は皆に熱く注文。

 

ITFS7_Idea

 

 

こうして、後半のワークショップで出された案が下記である。

・傘を巻こうとすると手が濡れたり巻くのに手間がかかるのが不快→差し込むと一瞬で傘を綺麗に巻いてバンドをしてくれる機械を駅のホームの乗車待機位置に設置

・誰もが改札を通る→自動的に雨しぶきが乾燥されるような改札兼ドライヤーを開発

・誰もがエスカレーターに乗る。そして導線が長い→乗っている間に傘をたため身体やカバンについた水しぶきが蒸発されるドームに作り替え

・濡れたくないものを濡れないようにするのがストレスの原因→濡れてしまっても大丈夫だと思えるものを着る→水着(素材に近いものの洋服を作って)出勤

・電車内に傘を忘れるのが雨の日に最も困ること→忘れる原因である座席の横に傘をかけてしまう習慣を取っ払う→傘をかけられない座席の設計

・満員電車を不快な場所でなくしてしまえば良い→電車のアミューズメント化。ジメジメした環境が当たり前の「アマゾン」という設定で楽しんでもらう→プロジェクションマッピングや天井の抜け感を使用

 

今すぐにでも実現可能な発想から、突拍子もないものだが可能になったら世の中が面白くなりそうだと思えるものまで、多種多様でユニークなプレゼンの数々であった。

 

最後に市角氏は、「本来なら3日間程かけて進めることを駆け足で進めてきた。“五感を総動員して相手に共感する”一連の流れをデザイナーは無意識に行っている。これからはデザインと経営の融合が求められてくる。今回を通してデザインともっと親しんでもらえたらと思う」と締めくくられた。

デザインシンキングによって深層にある課題を深く掘り下げ、ソリューションに向かってじっくりと時間をかけるという訓練がなされた当セッションは、参加者にとって新たな着想の持ち駒を増やす、非常に有意義な機会となりえたようだ。

 

このイベントのまとめが以下に作成されています。
http://togetter.com/li/810264

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